テントを出ると、重い空気が肌に刺さる。
吸い込んだ空気が肺いっぱいに広がり、一筋の吐息がたなびく。
空気は宇宙を透かし、空はどこまでも深い。
遠くの山々は朝日を浴びて朱く輝き、未だ陰っている足元には締まった雪。
起きがけに飲む一杯の紅茶が、まるで氷のように固まってしまった身体を溶かす。
・・・私は、、、私はいったい何を目指して走っているのだろう。
何をこんな、ただひたすらに耐えるだけの場所に来たのだろう。
分からない。
分からないけれど、でも、そういうことなんだろう。
ここにいて、この道を走ってきたということが、理由なんだろう。
そしてこの道を走っていくことが、この場所にいる理由なんだろう。
漠然とした答えしか無い問題だってある。
あぁ、自由なんだ。
蒸されながら待つ長い車列も、
どこに行ってもいる観光目当ての人達も、
モラルのないバイクの集団も、アホみたいなサンデードライバーも。
ここには邪魔するものはなにもない。
自由だからこそ、どうでもいいような悩みが浮上するし、それすらも、じきにどうでも良くなってくる。
そしていづれ、人間関係や日常生活といった浮世の何もかもがどうでも良くなってきて、
空が、緑が、大地が、その他あらゆる自然が愛おしいと思うようになる。
人の手の介在しない清浄な存在が、生きる力を与えてくれるようになる。
そのことに、気づけるようになる。
言葉なんて要らない。
言葉は雄弁に語るが、語ることが精いっぱいだ。
感じられるようになってやっと理解できることもある。
旅は、それを教えてくれる良い教師であった。
冬の北海道の追憶に、そんなことを考えた。