少年時代、近所の駄菓子屋までが世界の全てだった。
中学生、夏休みに自転車で行った川が、僕の住んでいる街の隅っこだった。
高専時代、僕はバイクで旅に出た。日本中が僕の世界になった。
住んでいるところを離れて、最も遠くへ行ったのは台湾だ。
移動手段が変わって、僕の中の世界は広がった。
同時に、世界は距離的に狭くなった。
「Тйше едешь, дальше будешь.」
ゆっくり歩むものは、一番遠くまで行く。ロシアの格言だ。
僕らがバイクを選択する理由はここにある。
焦らず、気長に、長い時間を走って、遠くへ行く。
遅ければ景色は飛んでゆかない。景色は流れてゆく。
草は緑一色で潰れない。遅ければ全てが見える。
速ければ速いほど失うものは大きい。
目的地に行くことと同じように、その過程もまた大切な時間なのだ。
ゆっくり歩むものは、最も世界を堪能できるのだ。
ゆっくり歩むものは、最も世界を堪能できるのだ。
歩く歩幅は狭くていい。
旅情とは、距離と時間、そして遅い移動速度が生む。
久しぶりに原付の楽しさを堪能した、そんな初夏の休日だった。